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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)373号 判決

控訴人

A

外七名

右控訴人ら訴訟代理人弁護士

原田次郎

宮地光子

村本武志

安達徹

松田繁三

横山精一

被控訴人

J

右訴訟代理人弁護士

清木尚芳

松本岳

三浦州夫

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人は

控訴人Aに対し、金二三万円

控訴人Bに対し、金三三万円

控訴人Cに対し、金四七九万円

控訴人Dに対し、金五三万円

控訴人Eに対し、金六六万円

控訴人Fに対し、金二五九万円

控訴人Gに対し、金三五二万五〇〇〇円

控訴人Hに対し、金四二四万五〇〇〇円

及びこれらの金員に対する平成三年七月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  控訴人らのその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人らの、その余を被控訴人の各負担とする。

三  この判決は第一項の(1)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人らに対し、別紙(二)請求金目録の請求金額欄記載の各金員及びこれに対する平成三年七月二一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二  当事者の主張

次のとおり付加、訂正するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  三枚目裏二行目と四枚目表六行目と五枚目表八行目と同裏八行目と同一〇行目と七枚目表一〇行目の各「原告ら」を「控訴人ら及びI」に改め、三枚目裏五行目の「別紙取引ルート及び分筆経過一覧表」の次に「(ただし、番号10の「土地」欄の「639番―1」を「693番―1」に改め、番号11の「原告及売買契約目録番号」欄に「F契約番号20」、同「関連書証」欄に「甲第九二〜九四号証」を加える。)」を加え、四枚目裏七行目の「山村」を「山林」に、五枚目裏一〇行目の「別紙請求金額目録」を「別紙(一)請求金目録」に改める。

2  六枚目表九行目冒頭から同裏六行目までを次のように改める。

「(1) 被控訴人は、昭和四五年ころから、東京、大阪の業者が、都会の人に投資目的で山林を分譲していたことを知っていた。また、被控訴人は、新聞、テレビ等の報道により、原野商法を行った業者が詐欺罪で逮捕され、損害賠償訴訟を提起され、行政処分を受けていたことを知っていた。

(2) 被控訴人は、三青・三陽商事が投資、利殖物件として、関西在住の者に本件土地を五〇ないし一〇〇坪に分筆して売っていることを知っていたのであって、当然、本件各土地の値上がり可能性がまったくなく、投資価値のないことも知っていた。まして、本件各土地は場所も特定できないような山林原野である。このことだけをみても被控訴人が、三青・三陽商事の商法の不法行為(違法性)を認識していたということができる。」

3  七枚目表八行目と九行目との間に次のとおり加える。

「(三) 被控訴人は、不動産取引主任の資格を有する宅建業者であり、法令を遵守し、信義誠実義務または善管注意義務に基づき、取引関係者に不測の損害を被らせないよう十分配慮して業務を処理する注意義務があるのに、この注意義務にも違反している。」

4  七枚目表一〇行目の「別紙請求金目録」を「別紙(一)請求金目録」に、同裏二、三行目の「損害である」を「損害となった」に改め、同裏三行目と四行目との間に次のとおり加え、同四行目冒頭の「5」を「6」に、同五行目の「同目録」を「別紙(二)請求金目録」に改める。

「5 Iは平成七年一月二九日死亡し、相続人である控訴人G、同HがIの権利義務を二分の一ずつ承継した。その結果、控訴人らの請求金額は別紙(二)請求金目録の請求金額欄記載のようになった。」

5  八枚目表五行目の「「三青商事」を「三陽商事」に、同六行目の「三陽商事」を「三青商事」に、九枚目表一行目の「有土」を「有戸」に改め、九枚目裏一一行目末尾の次に改行のうえ、次のとおり加える。

「前記のとおり、被控訴人はむつ小川原開発区域における石油備蓄基地、むつ小川原港、国の核燃料サイクル基地といった大規模工事、大プロジェクトの進行に伴って、開発区域外においても道路網の整備、工場誘致が進んで経済波及効果が期待でき、一〇年単位での長期的な展望に立てば土地の値上がりが期待できると考えていたのであり、被控訴人において三青・三陽商事の関西における本件各土地の売買価格を知る由もなかった。」

6  一一枚目表九行目と一〇行目との間に次のとおり加える。

「また、被控訴人は、三青・三陽商事の控訴人ら及び亡Iに対する売却行為に全く関与していないし、その準備段階で協力したこともない。宅建業者の信義誠実義務または善管注意義務は第一時的には委託契約上の義務であって、委託関係にない第三者に対しては右義務はないものである。したがって、三青・三陽商事がいかなる勧誘方法でいかなる相手に転売しているかという点まで調査すべき注意義務はなく、被控訴人には控訴人らの被害を予見すべき義務はないし、予見可能性もなかった。」

7  一一枚目裏三行目冒頭から末尾までを次のように改める。

「5 請求原因5の事実は認め、同6は争う。」

第三  当裁判所の判決理由

一  原判決の理由説示の一ないし四項(一一枚目裏八行目冒頭から一八枚目裏三行目末尾まで)を次のとおり補正のうえ引用する。

1  一二枚目表一行目の「三青商事」を「三陽商事」に、同二行目の「三陽商事」を「三青商事」に、同末行の「甲第一ないし一六一号証」を「甲第一ないし第七九号証、第八四ないし第一六一号証、第一八一ないし第一八四号証」に改め、同裏一行目の「別紙売買契約目録に記載したとおり」を「別紙売買契約目録の契約番号17を除く分に記載のとおり」に改め、同三行目末尾の次に改行の上、「なお、同目録契約番号17の土地は、甲第七三号証、第八〇ないし第八三号証によれば有限会社日昇観光開発が控訴人Eに売渡したことが認められ、三青商事が売渡したものとは認められない。」を加え、原判決添付売買契約目録の契約番号14の「所在」欄の「大字千樽」を「大字鷹架字千樽」に、契約番号21の「所在」欄の「上北郡字篠内平」を「上北郡東北町字篠内平」に改め、契約番号21の「1番―165」の「面積」欄に「165m2」を加える。

2  一二枚目裏九行目の「甲第一九一号証」を「甲第一六二号証、第一九一号証」に改め、一三枚目表三行目の「被告本人」の次に「[原審]」を加え、同裏一行目の「認められるが」から同四行目末尾までを「認められる。そして、甲第一九二号証、検甲第一号証によれば、本件各土地は山林、原野であって、分筆されても現地で土地の区画は特定されておらず、本件各土地に至る取り付け道路もなく、水道、電気等を引くこともできず、宅地等に利用し得る土地にするには多額の出費を要する土地であることが認められる。」に改める。

3  一三枚目裏七行目の「第一九四号証」の次に「、検甲第一号証」を、同行の「被告本人」の次に「[原審]」を加え、原判決添付売買契約目録の契約番号1の「勧誘文言」欄の「一区画買って欲しい。」を「前に買ってもらった土地の値段が上がって来たので、もう一区画購入してもらって税金対策をしなければならなくなった。前回の時より転売状況がよくなったので九月下旬までには転売できる。」に、同目録の契約番号16の「勧誘文言」欄の記載を「買い手と交渉する際、土地が広い方が売りやすい。」に改める。

4  一四枚目表二、三行目の「行っている点に特徴があり」を「行っており」に改め、同末行の「第一九二号証」の次に「、第一九八ないし第二〇二号証、第二〇五ないし第二一七号証、第二一九ないし第二二一号証の各1、2、第二三四、二三五号証」を、同裏一行目の「被告本人」の次に「[原審、当審]」を加え、同七行目の「どのようなものであったか」を「前記二に認定のような状況にあったこと」に、同八行目の「当法廷」を「原審法廷」に改め、一五枚目裏九行目の「三青商事もしくは三陽商事であったこと」の次に「(ただし、別紙売買契約目録の契約番号17は有限会社日昇観光開発であり、これを除く。)」を加える。

5  一五枚目裏一〇行目と末行との間に次のとおり加え、同末行冒頭の「(四)」を「(六)」に改める。

「(四) 昭和五四年四月ないし昭和六一年ころ、読売、朝日、毎日各新聞や東奥日報には、東京や大阪の業者が、主として北海道の山林、原野を、数年後には二倍から八倍で買戻す旨述べて、高額な値段で東京や大阪で売却して被害が出ており、業者が逮捕されたり、損害賠償訴訟を提起されたり、宅建業の免許取り消しの行政処分を受けたことが報道されていた。

(五) 前記認定のとおり、本件各土地は、別紙取引ルート及び分筆経過一覧表の分筆年月日欄記載の年月日に、被控訴人が売却ないし仲介した土地をそれぞれ分筆した土地である。そして、分筆されたうちの本件各土地は現地では特定できず、各土地に至る取り付け道路もない土地である。」

6  一六枚目表八行目の「この法廷」を「原審法廷」に改め、同裏二、三行目の「昭和六〇年以降については」と同末行の「ある時点からは、」とを削り、一七枚目裏二行目冒頭から一八枚目裏三行目末尾までを次のように改める。

「次に過失による幇助が認められるか否かについて検討する。

前記認定のとおり、昭和五四年四月から昭和六一年四月までの間に原野商法による被害が社会問題となり、原野商法を行った業者が逮捕されたり、損害賠償訴訟を提起されたり、行政処分を受けたことが各新聞に報道されていたところであり、被控訴人は東京、大阪にはそのような業者が存在することを知り得たところ(被控訴人は宅建業者であるから、そのようなことについて、関心をもち、注意を払っていたものと推認される。)、被控訴人ないし石田興産は三青商事や三陽商事に対して、昭和五九年一月から昭和六一年九月まで、本件土地を含む青森県上北郡内の山林、原野を、短期的には値上がりが期待できないことを知りつつ三青商事や三陽商事に多数回売却、仲介し、しかも、買い受けた三青商事や三陽商事が土地を細分化し、これら現地では特定できない、細分化した土地を都会の住民らに相場よりもかなり高額で販売していたことを知っていたのであるから、これが問題となっている原野商法に当たらないか、詐欺行為にならないかについて注意すべきで、勧誘方法についても予見可能であったものというべきであり(なお、甲第一六二号証によれば、被控訴人は、三青商事や三陽商事がどんな売り方をしているのか疑問に思っていた旨述べている。)、少しの調査で三青商事や三陽商事の不法行為を発見でき、被害の発生を防ぎ得たと解される。被控訴人は宅建業者としては、取引の相手方がいかなる勧誘方法でいかなる第三者に転売しているかという点までは調査すべき義務がない旨主張するけれども、本件は取引の相手方が多数の住民に多額の被害を発生させる行為をすることが予見可能で、少しの調査で結果発生が回避できる場合であって、法令を遵守すべき義務のある宅建業者である被控訴人としては、取引ないし仲介の相手方がそのような行為をすることを予見し、これを回避すべき注意義務があったものというべきである。また、細分化された現地で特定できない、取り付け道路もない山林、原野、言い換えれば利用可能性、転売可能性のほとんどない山林、原野を投資目的で販売すること自体違法であると解される(結局最終的に取得した一般市民が無価値に等しい土地をつかむことになるからである。)

したがって、被控訴人は、過失によって、三青商事、三陽商事の不法行為を幇助したものというべきであり、後記の控訴人ら及び亡Iの損害との間に相当因果関係が存するというべきものである。」

二  そこで、控訴人ら及び亡Iの損害(弁護士費用を除く。)について検討する。

証拠(甲第一ないし第七九号証、第八四号証ないし第一六一号証、第一八一ないし第一八四号証)によれば、控訴人ら及び亡Iは本件各土地の売買契約を締結して、原判決添付売買契約目録の支払金額欄の金額を支払い(ただし、契約番号17を除く。)、右金額から取得した本件各土地の評価額を差し引いた価額相当の損害を受けたことが認められる。支払額の合計額は、控訴人Eを除く控訴人ら及び亡Iについては別紙(一)請求金目録の支払金額欄に記載のとおりである。そして、控訴人Eについては金二〇〇万円となる。また、本件各土地の評価額については、証拠(甲第一九二号証、第二三一号証、検甲第一号証)によれば、昭和六二年四月当時本件各土地の評価額は少なくとも一平方メートル当たり五〇円であったことが認められるので、現在でも右評価額は右金額を下らないものと認められるところ、控訴人ら及び亡I各人について取得した本件各土地の評価額の合計金額は、控訴人Aは四一〇〇円、同Bは九八五〇円、同Cは一七万〇〇五〇円、同Dは一万六六五〇円、Eは一万六四五〇円、同Fは四万五六五〇円、同Gは九五五五〇円、同Hは四万三九〇〇円、亡Iは二二万七五五〇円となるので、支払額から右各取得土地の評価額を差し引くと、控訴人らの損害額は、控訴人Aは六九万五九〇〇円、同Bは九九万〇一五〇円、同Cは一四四九万九九五〇円、同Dは一五八万三三五〇円、同Eは一九八万三五五〇円、同Fは七八二万九三五〇円、同Gは七九万〇四五〇円、同Hは二九五万六一〇〇円、亡Iは一九七七万二四五〇円となる。

三  過失相殺について

証拠(甲第五号証、第九号証、第一八号証、第五九号証、第七三号証、第一八一ないし第一八四号証、当審証人村本武志)によれば、控訴人ら及び亡Iは、三青商事や三陽商事との間で、本件各土地の売買契約を締結した際、本件各土地の価格、その値上がりの可能性や転売の可能性等について、三青商事や三陽商事の従業員の言うことをそのまま信じ、その裏付け調査を全くしなかったこと、現地へも赴いたことがないことが認められ、右事実によれば、その損害の発生について控訴人ら及び亡Iにも過失があったものというべきところ、前記の被控訴人の過失内容並びに被控訴人は本件詐欺行為の実行者ではなく、被害者である控訴人ら及び亡Iとは会ったこともないこと、被控訴人もある程度高額で売却していると予想していたものの、その予想をはるかに越える一平方メートル当たり五〇〇〇円ないし一万一〇〇〇円という高額で売却されていたことに鑑みると、右過失割合は、被控訴人三、控訴人ら及び亡I各七程度の割合とするのが相当である。

そうすると、控訴人Aは二一万円、同Bは三〇万円、同Cは四三五万円、同Dは四八万円、同Eは六〇万円、同Fは二三五万円、同Gは二四万円、同Hは八九万円、亡Iは五九三万円となる。

請求原因5の事実は当事者間に争いがないので、控訴人Gは亡Iの損害賠償請求権を承継しその金額は合計三二〇万五〇〇〇円となり、控訴人Hは亡Iの右請求権を承継しその金額は合計三八五万五〇〇〇円となる。

四  弁護士費用について

控訴人らが本件訴訟の追行を弁護士である控訴人ら代理人に委任したことは本件記録上明らかであるところ、本件事案の性質、内容、本件訴訟の経過及び認容額に照らすと、控訴人らが被控訴人に求め得る弁護士費用は、控訴人Aにつき二万円、同Bにつき三万円、同Cにつき四四万円、同Dにつき五万円、同Eにつき六万円、同Fにつき二四万円、同Gにつき三二万円、同Hにつき三九万円とするのが相当である。

第四  まとめ

そうすると、控訴人らの請求は、被控訴人に対し、控訴人Aは金二三万円、同Bは金三三万円、同Cは金四七九万円、同Dは金五三万円、同Eは金六六万円、同Fは金二五九万円、同Gは金三五二万五〇〇〇円、同Hは金四二四万五〇〇〇円及びこれらの金員に対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな平成三年七月二一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。

よって、本件控訴は一部理由があるから、原判決を右の限度で変更することとする。

(裁判長裁判官中川敏男 裁判官北谷健一 裁判官松本信弘)

別紙(一)

請求金目録

控訴人(原告)

支払金額

弁護士費用

合計金額

請求金額

A

金七〇万円

金七万円

金七七万円

金五〇万円

B

金一〇〇万円

金一〇万円

金一一〇万円

金七〇万円

C

金一、四六七万円

金一四六万七千円

金一、六一三万七干円

金一、〇四〇万円

D

金一六〇万円

金一六万円

金一七六万円

金一一〇万円

E

金二六〇万円

金二六万円

金二八六万円

金一八〇万円

F

金七八七万五千円

金七八万七千五百円

金八六六万二千五百円

金五六〇万円

G

金八〇万円

金八万円

金八八万円

金六〇万円

H

金三〇〇万円

金三〇万円

金三三〇万円

金二一〇万円

I

金二、〇〇〇万円

金二〇〇万円

金二、二〇〇万円

金一、四二〇万円

別紙(二)

請求金目録

控訴人(原告)

支払金額

弁護士費用

合計金額

請求金額

A

金七〇万円

金七万円

金七七万円

金五〇万円

B

金一〇〇万円

金一〇万円

金一一〇万円

金七〇万円

C

金一四六七万円

金一四六万七千円

金一六一三万七千円

金一〇四〇万円

D

金一六〇万円

金一六万円

金一七六万円

金一一〇万円

E

金二六〇万円

金二六万円

金二八六万円

金一八〇万円

F

金七八七万五千円

金七八万七千五百円

金八六六万二千五百円

金五六〇万円

控訴人(原告)I

相続承継人兼

控訴人(原告)G

金一〇八〇万円

金一〇八万円

金一一八八万円

金七七〇万円

控訴人(原告)I

相続承継人兼

控訴人(原告)H

金一三〇〇万円

金一三〇万円

金一四三〇万円

金九二〇万円

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